ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2009 桜の咲くころ

桜の咲くころ 

                   

ちょっと前にお正月を迎えたばかりのように思っていましたが、もう春ですね。4月といえば日本では入学式、入社式と新しい年度の始まりです。この時期は何かと思い出が多いものです。何もかもが新しく始まるお正月とは別の意味で4月も「始まりのとき」です。日本ではテレビも新番組が始まるし、学校でも新しいクラスになります。そこには新しい人たちとの出会いがあり、友達や仲間が増えていきます。桜を見ると私は友達の顔を思い出します。

 

 私には高校からの仲間が6人います。高校に入学したときからの仲です。会えば、今でも彼女たちとはあの頃と変わらない気持ちで「女の子」に戻れます。子持ちのおばちゃんだって青春時代はあったんだし、時々は「女の子」に戻りたいものなのです。「なかよし7人組」でいろんなことをしました。通っていた高校は規律がとても厳しく制服検査はもちろんのこと、頭髪検査、持ち物検査もあり、リップクリームも色のついているものはダメとか本当に制限されていました。プラス、私も含めみんな門限があったので、夕方6時になると急いで帰宅していました。なので、私たちの活動は学校が終わった午後3時半からの2時間ちょっとですませる程度のことでした。それでもあの頃の私たちは毎日が楽しかったのです。

 4月はお花見が恒例でした。自転車でお城のある公園に行きました。桜がいっぱいなので、のんびりお弁当でも食べながらお花見できたらよかったのですが、なにせ2時間ちょっとという限られた時間なのでそうそうゆっくりしていられません。7人で屋台を見て歩くのは楽しかったです。高校生とはいいものだ、と思いました。子供の頃はいつも両親と一緒だったので屋台で何か欲しいときは親に買ってもらっていました。でも、高校生になり、友達と一緒に屋台を練り歩けることはちょっとだけ大人になったような気分でした。セーラー服姿でイカ焼きを食べるさっちゃん、「イカ焼きはおやじみたいだ」とたこ焼きを食べるちあきちゃん、焼きとうもろこしを黙々と食べるペーター。それぞれに好きな物を食べながら歩いていました。私は小さいときから「りんご飴」というものが気になっていました。それはまるできれいな真っ赤なガラスでできたリンゴのようで、まさかあれが本物の林檎の飴がけだということを知りませんでした。子供の頃何度か両親におねだりしたこともありましたが、「あなたには食べ切れません。」と却下されてきました。16歳にして初めてその禁断の実に手を出してしまいました。感想は一言「林檎じゃん。」夢は木っ端微塵。きれいな甘い香りのするガラスでできた真っ赤なリンゴ飴は消え失せました。スーパーで売っている林檎がりんご飴の正体だったとは。。。ああ、それはまるでキティちゃんの着ぐるみの中に入っていた汗だくのおっさんをみたようなものでした。

 2-3口かじったものの、夢のリンゴ飴はただの林檎の飴がけになり、私はかじりかけのりんご飴を袋に入れたまま持ち歩きました。みんなでワイワイおしゃべりしながらの時間はあっという間に過ぎていき、帰る時間になりました。帰途に急ぎながらも、屋台の並びの一番隅っこで綿菓子を売っている人に目が留まりました。それは同じ中学で「かつみちゃん」と呼ばれていた不良だった男の子。普段はおとなしく声さえも聞いたこともなかったのに、中学の卒業式の後で先生たちをぶん殴ってしまったという。背が高く大柄だった「かつみちゃん」が小さな丸椅子に腰掛けて綿菓子作っている姿が暮れかかる夕闇の中なんだか悲しく見えました。

 今でも桜の花をみると、袋に入ったかじりかけの「りんご飴」と丸椅子に座る「かつみちゃん」を思い出します。

 

確か中学の英語の授業で、ワシントンDCには日本から贈られた桜の木があるという話を聞いたことがあります。私は渡米以来12年ずっとニュージャージーに住んでいます。DCへは友達が連れて行ってくれたことはありますが、いつも秋。4月になると「お花見したいなあ」と夢見ながらも、ひとりでDCまで行く勇気はありませんでした。

あれは7-8年ほど前のことです。当時一番仲がよくいつも一緒にビーチに出かけていたアメリカ人の友達から「DCの桜祭りに行こう」と誘われました。ええー、このアメリカの地でお花見できるン?! それから2週間頭の中では「さくらさくら」を歌い続け、興奮のあまりお出かけ前夜は眠れないほどでした。朝になり、急いで彼の家に向かいました。私を迎えてくれたのはパジャマ姿の彼。「ちょいと、あんた、急いでちょうだいよ」と言いたい気持ちを抑え、「今日はなんだか曇ってるわねえ」とさしさわりないお天気について話しました。彼の目が頷きました。「そうなんだ、曇りなんだ。だからDCは中止にしようと思うんだ」と。ええー、なんでえ、曇りだからってなんで桜祭り中止なン? 「僕は曇りの日に運転するのが嫌いなんだ。いっそのこと雨なら雨でいい。晴れなら晴れでいい。でも、曇りは嫌なんだ」って、そんなわけわかんないこと言われたって納得いかない。「でも、桜祭りはやるんだよね?走っていればもしかすると雨が降り出すかもしれないじゃない。曇りのままってことはないわよ」と食い下がると、「雨が降ったら桜祭りは中止だ」ともっともなことをおっしゃる。結局、近所の公園で、「先週買ったばかりなんだ」という彼の自慢の凧揚げのお手伝いをさせられました。黒い雨雲に覆われた暗い空の下、糸の棒を持って走らされました。そのうち雨が降ってきました。「さくら~さくら~」と口ずさみながらDCの桜祭りを楽しむはずの私が、彼んちの車庫で凧糸のからまりをほどいていました。

 

以来、4月になってもお花見をしたいという思いは封印して参りました。時々公園や通りに咲いている桜を見ては「りんご飴」と「かつみちゃん」を思い出すことが私のささやかな「お花見」気分となっていました。

ところが、去年の4月の始め、ママ友の一人から「お花見しよう!」と誘われました。それがなんとうちから車で15分のNewarkにあるBranch Brook Park。ここでは「Cherry Blossom Festival(桜祭り)」が毎年あるのです。こんなに近くでお花見できるとは思ってもみませんでした。Newarkといえば、空港と移民局以外行く事のない街だと思っていました。その町の公園に日本桜があるというのが意外でした。

桜祭りは家族で行くとして、ママ友プラス子供たちとは平日のお昼に「お花見」散歩をしました。お天気もよく桜がとてもきれいでした。1976年より桜の木の増植樹基金が設立され、桜の木は年々増えています。現在アメリカ国内で最も日本桜の多い公園だとか。

4月に入ると10K Runやバイクレースなどもあり、とてもにぎやかになります。今年の桜祭りは4月19日、日曜日。午前11時から午後5時まで、入場は無料。折り紙、盆栽、生け花、ダンスのパフォーマンスによる日本文化の紹介もあり、家族みんなで楽しめます。日本のお花見でみる「場所取り」のような風習はありませんが、家族でのんびりと桜をみながらお散歩するのもいいものです。うちは子供が小さいので屋内行事は大変です。騒ぎ出したりすると人目を気にして「さあ、もう帰ろうか」とそそくさと引き上げてしまいます。でも、屋外でしたら子供が騒いでもそんなに気にせずゆっくりできます。子供たちも外だと走り回ることができるのでうれしそうです。桜祭りの日でなくても、平日にちょっとお弁当持ってお花見するのも格別。やはり桜は日本人の心に春を感じさせますね。 情緒があります。

今年もまた、私はNewarkの桜をみながら「りんご飴」と今はもう40を超えた「かつみちゃん」を思い出すことでしょう。

 

 興味ある方はウェブサイトをご覧ください。桜祭り以外のイベントの情報もでています。

http://www.essexcountynj.org/

(973)239-2485