ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2009 スーパーマーケットの魅力

スーパーマーケットの魅力

 

私はスーパーマーケットが大好き。海外旅行に行くと必ずホテルのそばにあるスーパーに通いつめるし、日本に帰ると近所のスーパーには毎日のように行きます。スーパーでそんなに何かを買うわけでもないんです。ただただ並んでいるものを見て歩くだけなんですけど、それがたまらなく魅力的なのです。そう思いませんか。スーパーに行くと、果物も野菜も肉も魚もお菓子もジュースも靴下も洗剤も何だってあるんですよ。その国の人々の生活の凝縮図のようです。ただ、そこに住んでしまうとそれはそんなに魅力的でもなくなってしまうんです。なぜならば、自分がその図の中に入ってしまうからです。

アメリカに来た頃も、私は毎日のようにスーパーに通いました。当時、車もなく、近所のスーパーへ行くといっても片道徒歩30分はかかりました。それでも毎日通いました。買うものはたいていリンゴ3つとか、パンとか、とにかく荷物にならないものばかり。なにせ目的は食料品買出しではなく、スーパー見学なのですから。週末になり、友達に「スーパーに買出し行くけど、一緒に来る?」と言われると待ってましたとばかりにバッグを手についていきました。彼はただ単に食料品を買うだけなのに、私は特に買うものもないのにいつまでもクルクル歩き回っていて、なかなか帰ろうとしない。気長に待ってくれたものです。でも、いつも帰りの車の中で「満足したかい?」と聞かれました。おそらく私のスーパー好きは奇妙にみえていたのでしょう。

日本にいたとき、こちらでみるような小さなリンゴなんて食べたことなかったし、スクワッシュなんて見たことも聞いたこともなかったし、あんなに大袋のポテトチップスなんてみたことなかったし、ギャロンのミルクが普通に並んでいる光景などは想像すらしたことがありませんでした。ここではピーマンもナスも大きいし、当たり前なんだけど「オレオ」だってカタカナが全くなく英語だけの表示だし、数え上げたら切りがありません。それはそれは珍しく、モールに行くよりもスーパーに行くほうが何十倍も楽しいと思っていたくらいです。

 

同じスーパーでも地域によっておいてあるものが多少違うことに気がつきました。私は長い間、アメリカ人は挽き肉といえば牛かターキーしか使わないものだと思い込んでいました。かつて私が住んでいた地区のスーパーには挽き肉といえばその2種類しかおいてなかったからです。餃子を作るのも牛かターキーの挽き肉を使っていました。ところが、主人と結婚して別の街に移ると今度は野菜売り場で見慣れない大きな葉っぱが売っているのを目にしました。主人に「これ、何?」と聞くと、「カラードグリーンだ」というのです。それは黒人の人たちがよく食べる野菜だと知りました。そのあたりのスーパーでは豚の挽き肉もありました。アジア系の多い町では冷凍食品のところに「枝豆」「小豆アイスクリーム」といったものもおいてあります。当然のことながら、お客さんが必要とするものをおいておけば売れるわけです。その地区の人たちが何を食し、必要とするか、つまりそのあたりにはどんな人たちが住んでいるかはスーパーにいくと結構わかるかもしれないと思いました。

 

 スーパーではいろいろな経験もします。人の優しさにふれることもあります。子供を連れていると知らない人からも声かけられます。息子は小さい頃、カートに乗せると必ず眠ってしまう子でした。首を真横にへし曲げて寝ていたら、知らないおばあさんに「これじゃあ、この子、首の筋を痛めちゃうよ。これ、使いなさい」と大きなビーチタオルを息子の頭の下に入れてくれたことがありました。世の中捨てたもんじゃない、と心からお礼を言い、ありがたくそのタオルをいただいて帰ってきました。知らない人にこんなによくしていただいて。。。と思いながら頂いたタオルを洗濯し、たたんでしまおうとしたとき、私が見たものは洗って乾燥機にかけられてボロボロになったお店の値札。夏になるとスーパーでもビーチタオルやサンダル、パラソルまでもおいてあるのです。おばあさん、うちの子が首をへし曲げて寝ているので、そこにあったタオルを渡してくれたってこと?その支払いをしなかったのは私の責任?ってことは私、万引きしちゃったってこと?これも優しさ、ありがたくお受けいたしました。

優しさだけでなく、逆の思いもします。レジでうっかり出してしまった期限切れのクーポンを投げつけるように返されたり、子供をカートに乗せて買い物していてカートが前にいた人に当たってしまい、怒鳴られ、それで驚いて泣き出した娘をみて「こんなに泣く子はなにかおかしい。うちの孫はこんなに泣かない。」と言い捨てていく老婦人がいたり。そう、世の中にはこういう人たちもいるという凝縮図です、スーパーは。

 

そんな魅力的な場所でもそれが日常生活になってくると魅力も失せ、物をみて感動するよりも値段をみたり、セールの品をみるようになり、クーポン片手に長いレジの列に並んではため息をつくようになります。

 そこで、最近の私のお気に入りは日系スーパー「ミツワ」。ミツワにいくと、なぜだか心がほっとします。スーパーマーケットとはいえ、ここは私の憩いの場。どこからともなく聞こえてくる日本の歌謡曲。しばらく会ってない友達と偶然出会ったり。「日本にいるのと全く同じ」とまではいわないけど、日本の風を感じます。娘を保育園に預けるとミツワに直行し、お迎えまでの数時間をすごしたり、土曜日「どこか行くとこないかなあ」と思うと必ずミツワに向かい、週3回はミツワで過ごすようになりました。日本にいると気にもしないものでもこっちでみると「すっごい、なにこれ」と驚いてついつい衝動買いもしてしまいます。そしてその2日後にはまた同じところに立って、同じものをみて感動している私。

ミツワの素晴らしさはフードコートにもあります。子連れのランチにはもってこいの場です。ちょっとぐらい子供が騒いでも嫌な顔されずにランチをすませられるし、11時半くらいにいけば娘の大好きな「おかあさんといっしょ」をみながら食べることもできます。ランチをすませたらお買物です。サトイモ、大根、ごぼう、椎茸、エノキダケ。。。日本にいたら当たり前にある野菜なのに、近所のスーパーではお目にかかれない。ミツワにくると普通にそういった野菜が並んでいるのがうれしいです。続いてお漬物、納豆、じゃこ、うどん。。。うちの子供たちは日本食で育ててきたのでこれらは必需品なのです。半分はアメリカ人の血が入っているのですが、なぜか日本の年寄りの食生活そのものです。息子は甘いものが嫌いなので、おせんべいは大事なおやつです。そういった我が家での必需品を全て取り揃えているのがミツワなのです。ベーカリーもあり、甘いもの好きの主人と娘のスナックパンも手に入り、私の好きなモンブランケーキもおいてあります。早い話、私の欲しいもののほとんどをおいてあるのが「ミツワ」なのです。モールを歩くよりも何倍も魅力的です。

天気のいい日はミツワの前の川沿いの散歩道を歩くのも楽しいです。子供たちと手をつないでハドソン川の向こうにみえるマンハッタンをみながら、川に浮かぶ船、グワーグワーと騒ぐカナダ鴨、きらきら光る波、そしてほんの少しの潮の香りを感じての散歩は私たち親子のやわらかなひと時でもあります。ミツワで買ったおやつを途中のベンチに座って食べるのもいいものです。

夏になれば盆踊り。お正月にはお餅つき。日本にいたときはそんなに興味もなく、盆踊りなんて子供の頃行ったっきりなのに、こっちで盆踊りがあると聞けば1ヶ月前から楽しみにしてしまいます。アメリカの元旦は何もないのでここでのお餅つきは私の心をお正月モードにしてくれます。

食に文化にと、スーパーってやっぱりすごい。渡米12年目にしてホームシックの私にはミツワはなくてはならぬ場所。しばらくはミツワ通いが続きます。

 

ミツワマーケットプレイス

595 River Road,
Edgewater, NJ 07020
TEL: (201) 941-9113