ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2012 私を支えてくれるもの

私を支えてくれるもの

 

 最近思うのですが、人は誰もひとりでは生きていかれないということです。たとえばまわりに友達がいない場合でも、なにかを食べています。その食べ物ができあがるまでに携わっている人がいるわけです。 野菜を作った農家の人やそれらを製品化する際の工場の従業員。なにもそれは人だけとは限りません。残業が続いてしんどいときに疲労回復剤に助けられたり、一日の終わりに飲むワインだったり、人は心と体のバランスで生きているわけですから、精神的に癒されるものや趣味があるというのは健康を保つ秘訣のひとつかもしれません。

今回は、仕事をしながらも夏休み中毎日子供たちと遊び、へとへとになりながらも元気に生きている私を支えてくれている人やものを紹介したいと思います。

 

プール

 夏休みが始まると息子を午前中実家に預け、私はその間仕事にでかけました。娘は保育園なので、お盆休みが一週間あるくらいで基本的には毎日登園しておりました。私は仕事が終わると急いで帰り、午後から息子を近くのプールに連れて行きました。水男と呼ばれた息子は小学校でプールに入るようになってから何かがきっかけで屋外プールを嫌がるようになりました。これでは水男の名がすたると、息子を毎日プールに連れて行くことにしました。土曜日に通っている水泳教室は屋内プールで、こちらは嫌がることもないため、屋外プールまたはそこにまつわるなにかに嫌な思いをしたようなので、それを取り除くためにも楽しい思いを刻み込もうと思いました。最初は嫌がる息子でしたが、プール入り口で「ゆうちゃんも一緒に行って。ママだけだと迷子になってしまうからぁ。」と言うと、しかたないなあという顔をしながらも更衣室に入ってくれてあとはママと遊ぶんだという気持ちですんなりといきました。プールの中で水をかけあったり、私がもぐるとおもしろいらしく大笑いをしていて、考えてみたら娘が生まれて以来、私と息子が二人きりで遊びに出かけたり、なにかにふたりで笑い転げるなんてことはなかったかもしれません。いつも私たちは三人運命共同体ですから。息子が水男に復活すると私もうれしくて、毎日午後からプールに行くのが楽しみになりました。

 アパート暮らしの難点は夏にあります。建物に熱がこもり熱いのです。夜は熱をもったコンクリートの壁に覆われてエアコンなしでは寝られません。タイマーをセットすればエアコンが切れたと同時に暑さで目が覚めるので、一晩中エアコンつけた状態です。あまり冷えすぎるのは子供たちの体調を崩すからと思い、設定温度は適度にし、扇風機も回して部屋の空気を循環させておきます。この扇風機に私は度々痛い目にあうのです。寝るまでの少しの間と思い、扇風機を私だけに向けておくとそのまま眠ってしまうのです。そして、翌朝首が回らない、左肩だけが動かない、といった苦しみが待ち受けているのです。悲しいことに私は学ばない。ほぼ毎週のように同じ痛みに苦しむのです。こんな痛みを抱えてプールには行かれないと思いながらも、せっせとプールの支度をしている息子の背中をみていると行かれないとは言えなくなります。がんばってプールに入ってみたらこれがいいのです。陸上では痛みで動かなかった左肩が水中では楽に動くのです。痛みも忘れ、いつものように息子と戯れていると本当に痛みが消えてしまうのです。これはいい、と味をしめた私は肩こりがひどかったり、扇風機にやられたりすると「早くプールに行きたい」と思うようになりました。午前中仕事を終えると息子とプールに行くことが私の肩こりを癒し、息子との時間が気持ちを和らげてくれるものとなりました。

 

命の母

 更年期というのはおよそ自分には縁のないものと思っていました。悲しいかな、年齢と共に体は疲れやすかったり、忘れっぽくなったり、こうして人は年を取っていくのだと実感するような年になると、「おお、更年期」とその存在を受け入れるようになりました。更年期障害というのは精神的に滅入ってしまうほど重度な方もいれば、「そんなん知らなかった」と知らぬ間に五十半ばに突入する方もいて、一概に女性みんなに訪れるものでもないようです。そして、これは女性だけでなく男性にも起こるのだとつい最近知りました。

私は二~三年ほど前から、なんだかやたらと疲れやすくなり、それがたまるとイライラしてきたり、意味のない汗をかいていたり、「なんか変だなあ」と思うことがありました。仲のいい友達と話すと気が抜けるせいか、これまたやたらとため息をつきながら話すようになり、「疲れてる? すっごい疲れてるでしょう」と言われました。「うん、最近ほんと疲れるんだよね。朝起きても疲れてるし、年かなあ」と言ったら、「年だね。更年期かもよ」と言われ、自分がいつの間にかそういう年齢になっていたことに驚きました。それでもしばらくは「まさか私が」と現実を受け止めずにいましたが、疲れには勝てません。友達のすすめで「命の母」を試してみることにしました。販売名「女性健康薬 命の母A」は和漢生薬+ビタミン類の複合薬だそうで、更年期の女性にはよく知られた薬です。「まさか私が」と試してみるとこれがまたいいのです。一番効き目を感じたのはイライラがおさまったことです。そして、だるいような疲れもずいぶん楽になりました。まさか私が更年期、まさか私が命の母を、とまさかだらけですが、人は年をとるのです。体を酷使して生きているわけですから、体もきしんでくるわけです。私がイライラしていて最も被害を受けるのはわが子たちです。「もう~!」「いい加減にしてよ~!」とヒステリックに怒られていては子供たちもかわいそうです。「おさまれ、怒り」と思いながら、命の母なくして生きていかれないくらいに頼っております。命の母が少なくなってくると「あ、命の母がない」と汗がにじみ出てくるのはやはり私は更年期障害なのでしょうか。

 

黒にんにく

 私はニンニクが好きで料理にはたっぷり入れるとおいしいと思うのです。が、難点はニオイです。お口のニオイだけでなく、ニンニクを食した翌日のウンチは確かにクサイです。ニンニクをたっぷりいれた食事をした翌朝、私のあとにトイレにはいった娘は「うわぁ、ママのあとには入れないわ」と騒いでいますし、心優しい息子はトイレに入ったかと思うと用も足さずにUターンして出てきます。でも、ニンニクには癌発症を抑える効果があると聞いたし、元気がでそうだし、ニオイも味も食欲を増します。そういったすばらしい食品「ニンニク」なのですが、食した後に口や体から発するニオイが気になってそうそう毎日は食べられません。

ある日、友達が「黒ニンニクっていうのがあるんだけど、疲れにいいから試してみてよ」と黒ニンニクなるものを送ってくれました。黒ニンニクって何?と送られてきた箱を開けてみると、黒いニンニクの入った袋が入っていました。ニンニクそのものなのですが、外の皮は茶色で中身は黒くこげたような色なのです。「これを食べる?」と半信半疑で外の皮を剥いたら柔らかな黒い中身が簡単にとれました。食べてみると甘みがあり、ニンニクの香りは残っているものの臭みはかなり消えており、おいしいのです。

 この黒ニンニクの正式名は「北杜の熟成 黒にんにく」というもので、山梨県北杜市というところで作られているそうです。生にんにくを熟成庫で一ヶ月じっくりと熟成させることで真っ黒になり、熟成することによって栄養分が生にんにくの数十倍にもなるのだそうです。

 癌の手術から三年がすぎ、今のところ再発はありません。でも、油断は禁物です。私にはまだまだ小さな子供が二人おります。この子達のためにも長生きしなければなりません。この食品はがん予防にいいらしいよ、と聞けば可能な限りその食品を摂取するようにしております。黒ニンニクはそういった効果もあるようですし、とにかく目覚めのときの疲れ具合が違います。少しでも元気に朝起きて一日が始まるのは気持ちがいいものです。私は朝晩この黒ニンニクを一片ずつ食べています。これで癌が再発しないとか治るというものではないと思いますが、予防のため、そして元気な朝を迎えるため、私の欠かせないもののひとつです。

 

子供の寝顔

 いたずらしたり、兄妹喧嘩したり、落としたりこぼしたり、本当に子供たちが家にいると騒がしく、ゆっくりなどできやしませんが、私は毎晩子供たちの寝顔をみて一日をリセットします。怒りすぎてしまった日は寝顔をみて「もうママ怒らないようにするから」と反省し、三人で楽しくすごした日は寝顔にいっぱいキスしたり、これからのことを三人で話し合った日は確認するように「ずっと一緒だからね」と寝顔に話しかけたり、私が一番素直になれるときは子供たちの寝顔を見ているときかもしれません。大の字で寝ている娘、妹に擦り寄るようにくっついて寝ている息子、毎晩のことなのに、あきることなくわが子が愛おしく、「ああ、この子たちのママでよかったあ」と思うのです。こう思うことが私は自分を強くしているように思えます。自分だけのためならあきらめることも、この子達を守るためと思うと弱音を吐いている暇もありません。子供の寝顔は天使のようだ、とよくききますが、私はわが子の寝顔は命の源だと感じます。

 

 私はたくさんの人やものに支えられています。自分にとって一番心地いい存在がまわりにいてくれることはこの上なく幸せなことです。それは家族であったり友達であったり、またはお気に入りの場所であったり、大好きなものであったり。そんなたくさんの人やものに囲まれて生きていられることは当たり前のことではなくすごくラッキーなことなのです。自分を支えてくれているまわりのすべてに感謝の気持ちを持ち続けることがとても大事だと、疲労、肩こり、更年期の私は最近切実に感じております。