ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2013 初恋

初恋

 

 二月といえばバレンタインデー。日本ではテレビも街もチョコレート宣伝でいっぱいです。先日ふと私が初めて好きな男の子にチョコレートをプレゼントした甘くて苦いバレンタインデーを思い出しました。今思うと笑ってしまいますが、あの頃は真剣でした。いつかうちの子供たちもバレンタインデーに思い出を作るようになるのかなあ、とちょっと先のことを思いました。

 私は小学校四年生までガスでお湯を沸かすことができませんでした。当然、料理は苦手どころか全くわからず、母がテーブルにお料理を並べるのはある種のマジックのようにさえ思っていました。そんな私が初めて手作りチョコレートに挑戦したのは中学二年生のバレンタインデーでした。当時私は大好きな男の子がいました。バレー部補欠の同級生の男の子でした。同じクラスになったこともなく、小学校は別々、話したこともなく、どうして好きだったかというと顔がきれいだったから。かっこいいとか、男らしいとかいうのではなく、とにかく「きれい」という表現がぴったりなお顔をした男の子でした。そして、彼が本当に私のことを好きだったのかどうかはわかりません。なにせ話したことすらなかったのですから。ただ、学校では「五十カップル」という一覧があり、付き合っているカップルが五十、その中に私とその男の子が入っていたのです。いずれにしても私は彼のことが好きでした。だから、あこがれの手作りチョコを作りたいと思いました。ところが困ったことに私は料理が苦手、もちろんお菓子作りなんてしたこともありません。さてさて、どうしたらいいものか。当時は今のようにインターネットでどんな情報も一瞬でみつけるという神業もなく、チョコレート作りのためにクッキングブックを買うのも当時の私のおこづかいからは高額となり材料が買えなくなります。プラス、田舎町にはクッキングブックを売っている本屋さんがありませんでした。そこで私が試みたのは科学実験。理科は大の苦手。でも、理科の授業で得た知識を元に、チョコレートを溶かしてみることにしました。溶かすなら熱。そこで私はホーロー鍋を火にかけました。その鍋の中に板チョコを次々放り込みました。なんだか知らないけどパチパチと音がしました。チョコレートの中には白い点々がみえます。「これはチョコレートの結晶ってやつだな」と思いました。スプーンで混ぜながら溶かしているのですが、どうもおかしい。チョコレートが鍋の底にへばりついてなめらかさがないのです。時間がたつにつれてチョコレートがドロドロではなくカピカピしてきて、たくさんの白い点々が浮き立っているのです。おかしい、絶対おかしい。型に入れて固めなければただの溶岩のようなチョコレートになってしまう。なぜかうちにあったハート型にチョコレートを流し込みました。固めるには冷蔵庫か、とチョコレートを冷蔵庫にいれました。しばらくしてみてみると白い点々入りチョコレートは美しく固まっていました。さて、次はチョコレートを型から出す作業になります。どうやって出すんでしょう。端っこにナイフを少し突き刺そうとしたけれど硬すぎてナイフは刺さりません。となると、少しだけ型を温めてみましょう。少し溶ければするっと取り出せるでしょう。そこで先ほど使ったホーロー鍋につけてあるお湯で湯せんしたらいいと思いつきました。そのとき私がみてしまったものは、ホーロー鍋のホーローがはげていました。「お母さんに怒られちゃう」とあせりながら、「チョコレートの中の点々はホーロー?」とびっくり。ホーローって食べても毒じゃないかな?ホワイトチョコレートをちりばめた、ってウソはばれちゃう?大変困りました。そんな折、母が帰ってきました。母は鍋を見るや否や、「ちょっと、なにをしたの!」と言い、私の点々入りチョコレートに目をやり、「鍋がはげてチョコに入ってるじゃない。」とあきれました。「お母さん、このチョコ、型から出すにはどうしたらいいかなあ」ときくと、母は「溶かすしかない」と言いました。うそでしょう。板チョコを溶かして、型に入れてかためてハート型をつくったのに、また溶かしたら、溶かして固めての繰り返しになってしまう。「それ、プリンやゼリーを固める時に使うのなんだけど。なんでそこにチョコ入れて固めたの?」と母はホーローの剥げ落ちた鍋を手にぼそりと言いました。「ホーローでしょ、その点々。食べちゃダメよ、ホーロー」と言われ、あきらめがつきました。これをあの子にあげたら、それこそ赤い毒入りりんごを持った魔法使いのおばあさんになってしまいます。ホーロー入りチョコレートを食べて死んではいけません。私は走りました、近くのお店へ。普通に売っている特別でもなんでもないチョコレートを買ってきました。バレンタインデー当日、チョコレートは彼の下駄箱の中に入れました。その後のことは知りません。でも、補欠とはいえバレー部男子の下駄箱って、靴くさかったんじゃないかな。。。と今になって思います。そんな中にチョコレート入れて置かれて、あの子はうれしかったのかなあ、と甘くて苦い思い出になりました。

 私の初恋はなんだかかっこ悪いものでしたが、最近娘が保育園で好きな男の子がいると話してくれました。父母の会で一緒に役員をやっている方の息子さんで、6歳児なのにどうみても小学二年生。おだやかな優しい男の子です。娘も「トシ君はどいてって言うといいよって言ってくれるから好き」と言っていました。さてさて穏やかでないのは主人です。娘のプロムには自分がタキシードでエスコートすると言い張っていた父親。日本に住む私たちに、息子がガールフレンドつくるのはかまわないが、娘のまわりに男を近寄らせてはいけないとしつこく言います。娘は女子校に通わせて将来は修道院にいれて尼さんにしようかと思う、とも言い出しています。そんな父親なのです。先日、電話で娘は好きな男の子がいるらしいと話したところ、「ダメだ、ダメだ。それだけはダメだ。相手の男に電話で講義する」と言いながら動揺していました。娘に「ダダ、まあちゃんの一番好きな人はダダだよって言って欲しいみたいだよ」と話したら、娘はおもしろがって、「ダダ、まあちゃん、トシくんと結婚するから」と言いました。おバカな父親は「ダダが毎日ジムで体を鍛えているのはまあちゃんと一緒にプロムに出かけるためなんだ。」と言っていました。娘は余計におもしろがって、「まあちゃんはトシ君が大好きだから、明日結婚するの」と言い出し、父親は滅入るばかり。父親にとって娘とは特別な存在だとは聞いていましたが、なんだかおかしな微笑ましい関係です。そんなやりとりがあった少し後、娘が保育園から戻ると「トシ君、シオちゃんと結婚するらしいから、まあちゃんはやめた」と言いました。いきなりです。「トシ君に言われたの?」ときいたら、「違うよ、シオちゃんがそう言っていたから。」と事も無げに言いました。いやいや、これが大人だったらただならぬことになっています。友達のシオちゃんが「大人になったらトシ君と結婚するから」と言っているのを聞いたらしく、「だからやめたの」だそうです。そうかあ、娘は恋より友情を選ぶんだなあ、と感慨深くなりました。トシ君のお母さんにそのことを話したら、「え、トシの取り合いがあった?で、将来の嫁は誰になった?しかし、びっくり。知らぬは当のトシと未来の姑の私だけだった?」と大爆笑。娘の恋は終わりました。保育園でのポシェット作りと同じ2週間の恋でした。そして、主人はせっせとジム通いに励んでおります。

 四月から息子がボーイスカウトに入ります。ボーイスカウトにはなんと息子の大好きなリオちゃんがいるのです。保育園が一緒で、小学校は別々になり、もう会うこともないと思っていたリオちゃんと会えるのです。リオちゃんは息子にとてもよくしてくれて、息子もリオちゃんの言うことは受け止めていました。「ゆうくん、みて、ほら、あおむしだよ」とリオちゃんは手のひらにあおむしを乗せて息子に見せに来ました。息子は実は虫が大の苦手。なのに、「うわあ、リオちゃん、あおむしだあ」とリオちゃんの手のひらのあおむしを撫でていました。リオちゃんの前では男の子でいたいんだなあ、と母は息子の背中を見ていました。そんなすてきなリオちゃんと春には再会できます。ずっとずっとママのゆうちゃんでいてほしいと願う一方、男の子の顔をみせる息子にうれしくもあります。

 バレンタインデー、愛する人に気持ちを送りましょう。それは友達、家族、夫婦、親子、恋人、相手を大事に思う気持ちがあったら、そこには愛があります。みなさんのまわりにたくさんの愛がありますように。本当は毎日がバレンタインデーだといいですね。