ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2009 甘いひととき

甘いひととき

 

日本の実家に帰ると決まってテーブルの上にあるもの、それは近所のベーカリーで買った焼きたてパン。私は甘いものと焼きたてのパンが大好き。これは子供たちにも遺伝したようで、息子はパン好き、娘は甘いものに目がないのです。私たち3人にとっておいしいベーカリーは日常生活においてなくてはならぬものです。しかしながら、私はアメリカのパイやケーキが好きになれません。なぜかというと、恐ろしく甘すぎるか、または塩味がするからです。塩味のスイーツ?それはスイカに塩をかけて甘味をひきだそうとしたところ、うっかりかけすぎて瓜の漬物のようなスイカになった状態で、甘いものを食べているはずが塩味で舌がしびれる別物になってしまうのです。こちらのベーカリーでは日本でみるような調理パンとか菓子パンといったものが見当たりません。パンはあってもロールパンやフランスパンといった食事のお供パンが主流で、「ちょっとパンでもかじりながら」的なものに出会えません。わが息子、3歳ながらパンにはちょっとうるさく、「おいしいパン」じゃないと食べないのです。

そこで母は立ち上がりました。わが子のため、いやいや、私のためにもおいしいベーカリーを探しに行こうと。

 

まずは日系のベーカリー。パリジェンヌといえばたいていの日本人の方はご存知でしょう。マンハッタンでは3店「Zaiya」という名前で出ていますが、パリジェンヌとZaiyaは同じお店で、おいてある商品も同じとのこと。今回私がおじゃましたのは、娘の保育園、親子教室に近いFort  Leeのパリジェンヌ。Fort  Leeのメインストリートにあるこのお店、1990年にオープンされたとのことで、日系社会はもちろんのこと、地元にも密着した「街のパン屋さん」。ベーカリー&カフェなので、地元のおじいちゃん、おばあちゃんがモーニングコーヒーを飲んでいたり、子供を保育園に預けた帰りのママたちがお茶していたり、のんびりほんわかくつろぎの場でもあります。パリジェンヌはFort  Lee以外にも、White Plainsの大道内に1店、Hartsdaleにも1店あり、Zaiyaはマンハッタンに3店あります。なぜこんなに受けるのか、それには理由があります。すべてが手作りだからです。ケーキなら、スポンジケーキは毎朝3時から焼いており、お店がオープンするときにはその朝作ったばかりのケーキが並びます。ムースは固める必要があるので前夜のうちに作っておくそうです。つまりつくりたてケーキなのです。季節のものを取り入れ、年に2-3回はケーキも衣替えをしているそうです。パイ生地も手作り。バターから手で練って焼くそうです。もちろんバターは最高級のものを使っています。だから、バターたっぷりのパイもクロワッサンもくどさがないのです。わが息子、食パンにはちょっとうるさい。「まずい」とは言わぬもの、おいしくないときは一口目で「お腹いっぱい」と言い、それ以上食べません。しかし、おいしいパンに出会うと、5枚切の厚切りパンを2-3枚ペロリと平らげるのです。だから、食パンは息子に食べさせるとおいしいかまずいかよくわかるのです。パリジェンヌの食パンは息子のお気に入りのひとつ。マネージャーの八木さん曰く、「うちの物は添加物を一切いれてありません。だから、添加物に慣れていない子供の口にはあうのかもしれません」。小さな子供をもつ親として、「無添加」は食品を選ぶ大事な要素です。シンプルに甘いのは無添加の証、添加物が入っていると塩辛いケーキになってしまうんだそうです。子供にも安心、新鮮で手作り、これは朝3時からスポンジケーキを焼いている職人のみなさんの心がこめられているからでしょう。

2月といえばバレンタインデー。バレンタインデーといえば、スイーツ。こちらではバレンタイン用として、いくつかの商品を用意しているそうです。ちょっと気になるのは、ホワイトチョコレートをベースにした抹茶入りの生チョコ。これは上質の抹茶を使うそうなので、色鮮やかなグリーン、抹茶の香りにチョコレートの甘さで幸せな気持ちにしてくれそうです。

ちなみにこちらのチョココルネとチョコクロワッサン、日本でも味わえないくらいのおいしさです。「本物のチョコレートを使っていますから」と八木さん。確かにチョコレートのリッチなお味がします。

なにもかもが手作りというのがおいしさの秘訣のようです。ママのキッチンで焼くようなおいしい優しいパンとケーキ、心までほんわかさせてもらえます。

250Main St. Fort  Lee、NJ 07024 (201)592-8878

 

 

次にうかがったのは韓国系のベーカリー、Paris Baguette。こちらは韓国内では1700店以上の最大手のベーカリー。西海岸には7店、東海岸にはNJのFort Lee、Palisades Park、そしてNYのFlushingにお店があります。3月にはフィラデルフィアにもお店ができあがるそうで、韓国人の間では知らない人はいないという大きなベーカリーです。私がうかがったのはPalisades Parkのお店。お店に入るや否や、パンの種類の多さに圧倒されます。アジア風ドーナツは昔なつかしの「アンドーナツ」「カレードーナツ」のようで、日本人の口にはピッタリ。案内してくださったマーケティング・ディレクターのJessieさんが誇らしげに「うちは油のフィルターとか再利用とかいうものはないんですよ」とおっしゃる。「だって、油は毎日取り替えますから、古い油は捨てるんです」といわれる通り、ドーナツがあっさりしている。油くさくないのです。とにかく種類の多さに驚いていると、Jessieさんが「これも食べてみて」といくつかのパンを持ってきてくださいました。驚いたことにどれもこれも実家のそばのパン屋さんでみかけるようなパンなのです。レシピは80%は韓国から、20%はこちらのオリジナル。で、なんで日本のパンみたいなんだろう、と思っていたら、「うちはフレンチとジャパニーズの両方のいいところをあわせているの」とJessieさん。日本のベーカリーのハイスタンダードを参考にしているとのことで、思わず納得。

営業時間は朝7時から夜9時まで。自慢の食パンは夕方4-5時には売り切れ、夜7時以降はほとんどのパンが売り切れているそうです。残るものは少ないけど、それでも残った場合は捨ててしまうそうです。とにかくフレッシュが売り物とのこと。こちらのお店も添加物なし。

セントラルキッチンでパイ生地などは作り、それを各店に持っていき、お店で焼くのでどの店に行っても同じ味を楽しめます。それを活かして来年にはフランチャイズにする計画もあるそうです。

クリスマスには2000個のクリスマスケーキを売ったというから、ケーキもこのお店の自慢のひとつ。バレンタインには特別なケーキ、ギフトバスケット、チョコレートなどを用意するそうです。ケーキはアメリカのケーキのような「色鮮やか超甘いバタークリーム」ではなく、あっさりとした生クリーム仕上げ。

午前中の店内には若いママや近所のお年寄りの韓国人が集い、午後には学校帰りの学生がいっぱいという。韓国人だけでなく、日本人にも人気のこのベーカリー、かなり注目しています。

408Broad  Ave. Palisades  Park、NJ 07650 (201)592-0404

 

日系、韓国系ときて、次はというと台湾ベーカリー。とはいえ、実はこのベーカリー、もともとは日本のベーカリーでして、それが台湾に渡り、ここNJでは台湾レシピをもとに作られているそうです。SunMerry’s といえば、「ああ、知っている」と日本でもご存知の方がいらっしゃるのではないでしょうか。アメリカではここのみというSunMerry’s。黄色とオレンジ色を基調にした店内は、なんだかなつかしい感じがします。子供の頃、クリスマスケーキを注文した町のケーキ屋さんを思い出しそうな、ほんわかしたお店です。

季節に応じたケーキを作り、鮮度を大事にしているそうです。古いものは持ち越さないようにするため、一日で売り切れる分くらいを作り、その日のうちに売ってしまい、残ったら捨てるそうです。

アジアスタイルをモットーに、ケーキは通常10種類くらいおいてあります。くどくならないように、甘さも控えめ。人気はストロベリーケーキとティラミス。私個人的には抹茶ケーキが魅力的でした。抹茶のスポンジに小豆のクリームがなんともいい具合で、かなり大きめのスライスでしたが、ぺろりと平らげました。

ドーナツも昔なつかしのアンドーナツや揚げパン。アメリカのドーナツにはない味わいです。

あと、豆腐パンも人気だそうです。

マネージャーのLinさんが披露してくださったのはバレンタイン用のハート型やピンクのケーキ。なんだか子供の頃のときめいたバレンタインデーを思い出しそうなケーキです。懐かしい味でバレンタインの甘いときを過ごすのもいいかもしれませんね。

2151 Lemoine  Ave. Fort  Lee, NJ 07024 (Bridge Plaza内)(201)944-0088

 

日本の実家のテーブルのように我が家のダイニングテーブルにもおいしい焼きたてパンが並びました。忙しい毎日の中、おいしいパンやケーキをいただきながら一息つくのもささやかな贅沢、お腹も心も癒されます。今年は無添加の甘いバレンタインを過ごしてみてはいかがでしょう。