ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2013 車の運転事情

車の運転事情

 

 私がニュージャージーに住んでいたころ、ニュージャージーは国内で最も交通マナーが悪く事故率も高いと言われていました。今はいかがですか。確かにいたるところで衝突事故を見ましたし、雪降る日の高速ではクルクルスピンする車を度々目撃しました。信号待ちで出足が一秒遅れるとクラクションは鳴り響き、制限速度で走行しようものなら後続車から被されあっという間に追い越されました。そんな厳しいというか乱暴な交通事情にもまれていた私でさえもここ愛知県では決して「あー、ゆっくり運転できるわ」と思ったことはありません。私たちが住む愛知県では私が記憶する限りずっと「全国ワースト1」が続いております。なんだか交通事情が国内一悪いという点ではニュージャージーと愛知県は似通っていますが、運転していてなんだか「不思議だなあ」と思うことがいくつかあります。

 

チャイルドシート

 アメリカから帰国し、空港まで父が迎えに来てくれていました。空港の駐車場で父の車に乗り込もうとし、ビックリ!チャイルドシートが助手席に装着されていました。「はあ?これは何?」と唖然としてきくと、「ユウが乗ればいいだろ。それともマーの方がいいか?」と言われ、またまた唖然。当時まだ三歳、四歳のふたりをどうして助手席に乗せられますか。「ダメダメ、子供を前に乗せたら危ないでしょう。」とぼやきながらチャイルドシートを後部座席に二つ並べて装着しました。父は怪訝そうな顔して私を見ていました。私はいまだにどうしても馴染めないし、理解したいとも思いませんが、多くの子連れの車ではチャイルドシートを助手席に装着しています。助手席っていうのは、事故が起きた時最も大きな衝撃を受ける席なのです。そこにどうして子供を乗せちゃうんでしょう。父親が「男同士だもんな」と小さな息子を助手席に乗せ、母ちゃんと妹は後部座席に乗せて走るのは男同士という粋なことなのでしょうか。まだ首が据わらないような赤ちゃんをエアバッグを被せるかのごとく助手席にベイビーシートに乗せて、泣いてもあやせるしお腹すいたらすぐにミルク飲ませられるし、というママはそれは優しさの証でしょうか。あと、信号待ちで見ていると子供たちが車内で立ち上がり前に身を乗り出していたり、動き回ったり、早い話子供にシートベルトを装着させないで平気で運転している大人たち。そんな子連れが本当に多いのです。私はいまだかつて、自分の子供たちを助手席に乗せたことはありませんし、子供たちにシートベルトを装着しないで走行したことは一度もありません。「まあちゃんも前に乗りたい。」と娘に言われたこともありました。でも、私は事故で子供を亡くしてからでは遅いので決してその願いは受け入れません。うちの子供たちにはこう話してあります。「ママはゆうちゃんもまあちゃんも大事。もしも事故が起きた時、ゆうちゃんかまあちゃんが前に乗っていたら、一番最初に死んでしまうの。窓ガラスを突き破って飛び出してしまうかもしれないし、ガラスに頭をぶつけてしまうかもしれない。ゆうちゃんとまあちゃんを安全に乗せるために、ママはふたりには後ろの席でちゃんとシートベルトを締めてもらうよ。急にとまったり、後ろからぶつけられたりしたとき、シートベルトしてなかったら、勢いで前のガラスを突き破ってすっとんでしまうかもしれない。ママはふたりが大事だから、大きくなるまでは前には乗せません」と。アメリカでもシートベルトを子供に装着させないで運転する人もいました。でも、私が今普通にみているほど多くはなかったし、「粋な父親」「優しいママ」という名のもとでそういうことをするのはいかがなものでしょう。ここは「全国ワースト1」の愛知県です。

 

カーナビ

 カーナビには大変お世話になっております。唯一困るのは迷子になったときです。いやいや、本当は迷子になったときこそ助けて欲しいのですが、私のナビは薄情なのか、迷子になったときには大変冷たく突き放すのです。「目的地周辺です。案内を終了します」と無情なまでにいきなり案内をやめたりするから、「うわあ、周辺っていわれてもそれらしく建物ないし、参ったなあ」と近くの駐車場なり空き地なりに停まるのです。そして、再度住所を入力しようものなら、大変冷たく「目的地は近辺です。地図をごらんください」などと案内を拒否するわけです。まあ、中古のナビなのでしかたないかあ。。。と思い、安くて機能的なのはないものかと探してみたらびっくり。カーナビにはテレビが入るんですね。私のは地デジ対応でないくらいに古いためテレビが見れるということは全く忘れていました。ちょっと待ってください。カーナビのモニターでテレビってことは、運転しながらテレビ見ちゃうってことです。例えばミニバンの後部座席用に装置されたモニターでテレビを見るっていうのは理解できますが、運転しながらテレビ見たらダメでしょう。私みたいな危ないドライバーは絶対に「ながら運転」はやめましょう。私はナビが「700メートル先右折です」と言えば、「はいはい、700メートルですね、わかりましたよ」と返事までしてしまいます。テレビを見ながら運転するという技術は私には皆無です。「奥さん、ご覧ください。この掃除機はただの掃除機ではないんですよ。ここをですね。。。」などとテレビの人に声かけられたら、私はもちろんテレビに見入ってしまいます。危険です。そして、ここは「全国ワースト1」の愛知県です。いつどこから不意打ちにあうかわかりません。事故は一瞬です。慣れない山道をテレビ見ながら運転していると、後ろから地元のおじいさんの運転する軽トラにあおられるかもしれません。

 

駐車

 ニュージャージーでスーパーなどで駐車する際、「おおー、あそこが空いてるぞ」と空いているスポットをみつけたらそのまま前進で突っ込んで駐車しました。ここではそんなことをするのは無謀なおばあさんか私だけです。みなさん決まってバック駐車です。母に「なんで?」ときいたら、「出る時に出やすいから」と言われました。出る時より、今簡単に停めようとは思わないのでしょうか。バック駐車となれば後続する車を待たせることも多々あります。そんな面倒なことするより、さっと停めて出る時に後ろを気にしながらバックで出たらいいのに、と私は思うのです。いずれにしても私は相変わらず前向き駐車するわけですが、困るのは隣の車と運転席が同じ側に重なってしまうことです。荷物を後部座席に積み込んでいると、隣の人が買い物から戻ってきて車に乗りたくて待っているわけです。隣の人なんて関係ないもんね、とゆっくり荷物を積み込んでいるわけにはいきません。あと、またおもしろいなあと思うのは駐車する位置もお店に近いとか停めやすいという場より、出やすい場が人気スポットなのです。日本人は予習を大事にする、と聞いたことがあります。前もって準備したり、予定しておくと安心するのだと。駐車にも国民性がでるのでしょうか。

 駐車するとまた気になるのがサイドミラー倒しです。ほら、ドアにくっついているサイドや後方を確認するミラー、あれです。私がかつて日本にいた頃こんなにみんな駐車するたびにミラーを内側に畳んでいたのか記憶にはありませんが、多分今ほど「みんな」ではなかったかと思います。私も海外に出る前は日本で運転しておりましたが、ミラーを倒したことはありませんでした。なので、今回帰国してからみんながミラーを倒すというか折り畳むことが不思議でした。どうやって折り畳むのかも知りませんでした。ある日、まだ娘が保育園に通っていた時、保育園前に駐車しておいたら、サイドミラーが外側にひっくり返っていました。いつものごとく前向き駐車なのでバックで出ようとミラーをみたら何か変なのです。いつもと違う景色が映っているのです。おかしいなあ、と思いながらも家まで帰り、車から降りてみてビックリ。な、な、なんじゃこりゃ、壊された~!と思いました。なんとかせねばと恐る恐るミラーを内側に押してみるとボキッと戻ったのです。なんだ、ミラーは動くんだ。みんな、毎回こうして折り畳んでいたんだ、と思いました。なんだかうれしくなりました。私が知らなかったみんなの常識を理解できたようで、以来駐車するたび、手でミラーをボキッと内側に折り畳むようにしました。ある日、そんな私を目撃した友達が叫びました。「ジュンコ、ミラーに何すんねん。壊れるだろ。」というので、「これは駐車の常識よ。隣の車が近すぎても大丈夫、歩行者がぶつかっても外側にひっくり返されることもない。常識よ」と言い返しました。ちがうちがうって、手でミラーを折るな。車ん中にボタンあるだろ、それでミラーを折り畳むんだ!まさか、手でミラーを起こしていた(元の位置に開ける)とか? なんで手動やってんねん。友達はあきれていましたが、私は約半年くらいはミラーを手動で開閉しておりました。

 

 日本で運転を再開して早二年。まだまだ不思議があります。逆に私のまわりの人は私の運転を不思議がります。ニュージャージーではよく運転しながら歌いこむ人、激しくダンスする人まで目撃しましたが、ここではそんなおもしろい光景はありません。多くの人は信号待ちになると下を向きます。携帯電話です。いえいえ、今はスマホですか。信号で止まるとメールチェックをするのでしょう。それがあまりに普通にみる光景で、どうして警察は見逃しているのかと思ってしまいます。そして私はいまだに踏み切りを徐行運転で通り抜けてしまいます。一旦停止がルールだそうです。母を助手席に乗せていると「あ、また走り抜けた。止まって、目で確認、耳で確認して、それから渡るんだよ」と注意されます。でも、電車来る時はカンカンカン~って音がなり、遮断機が降りてくるからそうでない限りは徐行でいいように思えるのです。とはいえ、交通ルールは守りましょう。毎日がんばって「目で確認、耳で確認」と意識しながら踏み切りを渡るようにしています。交通事故は相手があるものです。自分がちゃんとルールを守っていても、相手が飛び込んできたら事故に巻き込まれます。全国ワースト1のここでは、事故が起きることは珍しいことでもありません。今日も私はたくさんのことを不思議だなあと感じながら不思議運転をしております。みなさんもどうぞ安全運転を。