ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2013 ハンディーママ

ハンディーママ

 

 二段ベッドと窓用エアコンを買いました。いよいよ我が家にもベッドです。とはいえ、狭いアパートにシングルベッドを並べるだけの広さはありません。幸いにも子供たちは二段ベッドにあこがれていました。そんなわけで二段ベッドを入れることになりました。

 実際、子供たちが二段ベッドを欲しがったのは一年前。日本でのアパート暮らしを始めて以来ずっと布団生活だった私たちですが、ふと昔の写真をみていて子供たちがそれぞれにベッドの上で遊んでいる姿がありました。「そういえば、アメリカにいたときは二人とも一歳になると赤ちゃんベッドから大人ベッドに変えてあげたね。」と思い出話をしていたところ、娘が「ベッドがいい」と言い出しました。この狭いアパートにベッドをいれたらそれこそ歩くたびにベッドの角に足をぶつけて血を流すことになる、とずっと思っていただけに即却下しました。しかし、ここ最近よくよく考えていたのですが、ベッドはいいかもしれません。朝に夕に布団の上げ下ろしは決して楽ではありません。プラス、ここ二ヶ月ほど息子は毎日へとへとに疲れて帰宅し、お風呂と食事を済ませるとソファーに寝転がったまま眠ってしまうのです。そうなると私は体重23キロの息子を抱き上げて布団まで運ぶわけです。夕方仕事から戻り、すぐに娘を学童に迎えに行きます。それから洗濯物を畳んで、夕飯の支度して、そうこうしていると息子が放課後支援から帰ってきます。そうです、帰宅後はまた朝同様にあわただしい空気が流れるのです。息子は午後八時にはソファーでウトウトし始めます。それまでに布団を敷いておけたらよかったのですが、そんな時間もとれません。なので、結局毎晩、ソファーで眠ってしまった息子を抱きかかえることになるのです。息子は日に日に重たくなっていきます。そして、私は日に日に体力が衰えていきます。対策を練らなければ。。。と思っていた矢先のことで、「ベッドほしい」という娘を却下しながらも抱きかかえる息子の重さに限界も感じ、最終的には「よし、ベッド買おう!」ということになりました。

 私たちのベッドルーム、去年は物置同然に使っていたため、夏の夜を迎えたことがありませんでした。古いコンクリート建てのアパートは夏は暑く冬は寒いのです。コンクリートが日中の暑さで熱を吸収してしまい、夜になるとその暑さがジワジワと染み出てくるのです。そうとは知っていたものの、エアコンもついていないベッドルームがサウナに変わるとは思ってもいませんでした。

 今年の夏は、といいますか今年の夏も暑い。とにかく暑い。数週間前は連日最高気温が体温を上回る暑さで、扇風機をつけても熱風が循環しているだけで涼しくもありません。そこで「冷風機」なるものを購入しました。「扇風機ではもの足りない、でもエアコンは苦手。そんな方のために」とかいうキャッチコピーにひかれてしまいました。いくらサウナ状態とはいえ、まさかエアコンつけたまま寝るっていうのはよくないし、といっても扇風機では意味ないし、この冷風機はまさに私たちのためのものに違いありません。即購入しました。うきうきして冷風機で一夜を過ごしました。。。暑くて眠れない、娘が鼻血出す、息子部屋から出て行く。これではせっかくベッド買っても寝られないではないですか。

 ということで、エアコンを購入することにしました。この狭い部屋は小さなエアコンで十分です。が、難点は壁にエアコンのホースを通す穴があいてないのです。ということはエアコンも窓に取り付けるタイプのエアコンしか設置できません。でもまあ、この狭い部屋は窓用エアコンで十分冷えるでしょう。急いで家電量販店に行きました。あまりの暑さのためこの手の小型エアコンはほとんど売り切れて下ります、と店員に言われました。今注文しても八月までは入ってこないとか言われても私は今夜欲しいのです。今すぐ欲しいのです。別のお店に行きましたが同じことです。三軒ほど回りましたが、私が欲しい窓用エアコンは売り切れです。そこでいよいよネットショッピングの出番です。私はこういう家電は現物を見てから買いたいのですが、背に腹は変えられません。あのサウナ状態ではせっかくのベッドでは寝られませんから。ネット上ではたくさんの商品があふれています。ありました、ありました、私の窓用エアコンが。うれしいのは即購入で翌日には配達されてくるのです。配送料無料、代金引換。夢のような話です。ただし、商品は玄関まで届けるのみでそこからの作業はお客様ご自身でということになるのです。ネット上では取り付け工事不要、取り付け所要時間30分とのこと。最近の私、自分で言うのもなんですが、日曜大工くらいはいろいろできちゃう女なのです。きっと大丈夫、私なら取り付けられるわ、と翌日の配達を楽しみにしました。

 届いた大きなダンボール箱から出てきた窓用エアコン、本体がかなりの重さです。これを窓の高さまで持ち上げて取り付けるということです。いまさらビビッても仕方ないので、ひとつひとつ組み立てていくことにしました。まずはエアコンのフレームを窓枠にはめ込みます。ところが、なんとうちの窓には補助金具をつけないとフレームが取り付けられないことが判明しました。補助金具を取り付けるにはアルミ窓枠に穴をあけてネジを通さないといけません。アルミ窓枠にそう簡単には穴があきません。当たり前ですけど、そんなことに初めて気がつきました。市内の電気屋さんや便利屋さんに電話して「窓用エアコンの取り付けをお願いできませんか」とききまくりました。今日明日でやってくれるところはみつからず、早くても来週になると言われました。待てません、そんなに。近くのDIYのお店では工具レンタルをしていると聞き、一家三人連れ立って電気ドリルをレンタルにいきました。電気ドリルなんて使ったことありません。でも、やらないことにはエアコンはつきません。子供を二段ベッドで寝かせたい、その一心で私は電気ドリルを駆使しエアコンを窓に取り付けました。エアコンのスイッチを入れた時、子供たちが「やったー、ママ!」と飛び上がりました。

 「ママっていろんなことできちゃうよね。すごいよね。」と娘がほめてくれました。でも、いつから私はこんなことできるようになったのでしょう。よくも悪くも私は主人からできる女に育ててもらったのかもしれません。主人はおそろしく不器用な男でした。私の父も不器用なので、ちょっとやそっとの不器用男には私も驚きませんが、主人は父と同じくらいに不器用でした。時はさかのぼること、2005年8月14日、私たちは扇風機を買いました。エアコンとシーリングファンはついていたのですが、どういうわけか主人が「扇風機があるといい」と言い出し買ってきました。私は妊婦でした。大きなお腹の私なので、彼は自分が扇風機を組み立てるとはりきりました。しばらくして彼が首をかしげながらキッチンに入ってきました。「いいと思ったんだけど、あの扇風機は風が来ないんだ。回るんだよ、ちゃんと。でも、全然風がこないんだよなあ。」と不思議そうにいいました。そんなわけないとみてみると、扇風機の羽を前後ろ反対に取り付けていました。「これ、反対じゃん。これじゃ、無理よ」と彼の努力の組み立てをはずし、新たに組み立ててみると、彼は「おお、風だ。よかった、よかった」と扇風機の前に満足げに座り込みテレビに見入っていました。その二時間後、私は破水し、翌朝息子が生まれました。息子が生まれる前に扇風機組み立てておいてよかったです。それから1年半後、2007年3月3日の朝。そろそろ生まれてくる娘のために用意してあったグリーンのタンスの色が気に入らないから白にペンキを塗って欲しいとずっと頼んでいました。主人はなかなかとりかからず娘はそろそろ出ますよとお腹の中で訴えているし、もう時間ないし「私がやるか!」と立ち上がりました。私のお腹はパンパン、ドクターから「もう2-3日で生まれてくる」と言われておりました。引き出しをとりだし、ひとつずつ丁寧にペンキを塗りました。午前中にペンキを塗り、午後にはきれいに乾きました。その夜、私は破水し、翌朝娘が生まれました。その後も組み立て式の家具を購入するたび、主人は大きさのあわないネジを無理やり押し込み壊してしまったり、板を表裏反対につけてしまったり、その都度私は直してまいりました。こういう手厳しい訓練のおかげで私はある程度の組み立て・修理ができるようになりました。

 私のがんばりと子供たちの応援で無事にエアコンが設置できました。ベッドも入りました。安心したその日は私も元気でしたが、翌日の夕方から腰痛が出てきました。背中も痛い。疲れが時間差で出てくるのは年齢のせいとは聞いていました。もう若くない、けれど子供のためならまだまだがんばれます。子供にとって二段ベッドはなんだか不思議な魅力があります。主人がお金を出し、私がアレンジします。子供というつながりのおかげで私たちは離れていても同じ目標を持ち続けます。今夜もエアコンをやんわりと利かせたお部屋で子供たちはベッドですやすや寝ています。