ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2014 桜餅

桜餅

 お花見に行ってきました。私の住む街はお花見をする公園や川沿いがたくさんあり、わざわざお花見に行くというより、歩いていて「おお、桜」と思うことが当たり前のようです。「お花見」とあえていうときは、ゴザを敷いての夜桜やお花見ピクニックを意味しているのかもしれません。私の職場に隣接する大きな公園もお花見名所のひとつです。年が明けてしばらくすると梅の花が咲き誇り、続いて桜が咲き始めます。私たちの職場では毎日の日課として昼食後、子供たちをこの公園に連れて行きます。なので、毎日梅も桜も見ていたというのにあまりに当たり前すぎて「桜っていつの間に咲いていたのかしら」と思ってしまうほどでした。

 一言で桜といえども、桜は種類によって花の形・大きさ、色も異なります。小学校の校庭でみた桜は白っぽいピンクのペチャンコな形の花でした。これはおそらく日本でよくみかける代表的な桜の染井吉野だと思います。花びらが舞うと雪の舞のようでもありました。それはそれで美しく、小学校の思い出の中では、校庭掃除をしていると枯れてしまった花びらを竹箒でかき集めた記憶があります。でも、私の中では桜というと「おいしい」というイメージがあるのです。雪の舞のような白い花びらはおいしそうにはみえないので、長い間それがどうしてだかわかりませんでした。

 答えは桜餅とピンクの桜の花でした。色は濃いピンクで花びらがぎっしりとつまった関山(かんざん)と呼ばれる八重桜をご存知でしょうか。この桜は関東地方でよくみられるそうですが、ここは関東と関西の入り混じった地域のせいか、この関山もよくみかけます。見るたびにその花はおいしそうで、私の大好きな桜餅を連想していました。塩漬けの桜の葉ごと食べるのが私は大好きで、ピンクの桜餅は春の代表菓子といっても過言ではないと私は思っております。ところが、桜餅というのは関東と関西では少々異なっていることを最近知りました。私が「桜餅」と呼んでいるものは関西風桜餅で、関東風桜餅は私は拝見こそしたことはありますが、「春の和菓子」としか認識しておりませんでした。あれも桜餅と知った時は大きなショックでした。関東風の桜餅というのは小麦粉の生地で焼いたピンクのクレープみたいな皮で餡をまき、それを塩漬けの桜の葉でくるんだものです。そして、私が大好きな関西風の桜餅というのは、道明寺粉でつくったモッチモチの皮で餡を包み、そこに塩漬け桜の葉でくるんだお餅というかまんじゅうというかそういうものです。私は普段こしあんはあまり食べないのですが、この桜餅だけは別です。こしあんが道明寺粉のモッチモチ皮にぴったりで、そこにちょっと塩っけのある桜の葉がいいアクセントとなるのです。私はこの関西風の桜餅がどういうわけか関山という八重桜と重なるのです。

 先日、アメリカの友達から「桜はどう?」ときかれ、「ああ、多分咲いていると思うから写真送るね」と言いました。桜をみた記憶はあるものの、無意識に公園を歩いているせいかどの程度の咲き具合なのか覚えていなかったので、カメラ片手にお昼休みに公園にでかけました。よくみてみると、白っぽい山桜のような桜もあれば、染井吉野もあり、そしておいしそうな関山もありました。何度みてもおいしそうな桜餅のような関山です。時期も終わりごろだったのでしょうか、関山の花の横に柔らかな葉が見え隠れすると、それこそまさに桜餅です。友達に写真を送り、「おいしそうな桜でしょう?」と言いました。桜をおいしいという表現は初めてだ、と言われました。考えてみたら、私には桜餅というものが念頭にあった上で、桜餅に似ていると思う関山があるので「おいしそう」という発想ですが、関西風桜餅と結びつかなかったら桜は決しておいしいという表現ではないのでしょう。

 桜の花の香りを実際に嗅いだことはないのですが、芳香剤だったり紅茶のフレーバーだったり桜の香りは「季節限定」というもったい付けで使われ、売られています。