ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2017 不運に勝る幸せ

不運に勝る幸せ

 

 私には時々珍しい出来事が起こります。たいていはあまりいいことではありません。先月は本当に「苦」とか「不」とか「凶」とかそんなネガティブは漢字に囲まれたような月でした。そういったことが起きてもそこから何かを得てくる貪欲さを持ち備えている私ですから、まあ、今月は夏風邪をひいたくらいでなんとか過ごせております。

 まず職場です。うちの職場には霊がいるという話が今年初めあたりからうわさになり、霊媒師にきてもらってお払いもしてもらいました。夜残業していると音がすごい、ということが発端となり、霊感の強いスタッフは「私には見えている」と言い、ずっと健康だったスタッフがやたらと原因不明の体調不良を起こしては病院に運ばれる、といったことが続いておりました。なんかいやだねえ、と同僚と話しながら、私もそこそこ霊感の強い方ですので、なにかに憑かれては敵わないとちょっと気にするようになりました。「見えてしまう」というスタッフは私をみると、「ここに一日中いたらダメだよ。外に出なさいよ」と言うので、おそらく私の周りでなにか見えていたのでしょう。職場のあたりはかつて徳川時代には戦いがあったり、また少し離れたところから逃げてきて命絶えた武士がいたり、そしてまたお寺が二つも近隣にあり、お墓もあります。そんな場所柄、いろいろな話は聞いているのです。しかし、いろいろな現象が起きるのはスタッフ全員ではなく、私ともうひとりのスタッフに集中しているのです。

 先月、職場でスタッフ間のゴタゴタもあり、「なんか仕事行きたくない」という思いの毎日を過ごしておりました。実際、かなりのストレスを感じておりました。その上に、「またかあ」と思うのですが、アメリカで離婚裁判からずっと信じてきた私の弁護士にお金を盗られました。あまりにもなにげなく盗られており気がつかなかった私も悪いといえば悪いのですが。養育費が振り込まれていたカードが日本では使えないので、カード発行会社が全く対応してくれないから弁護士に別件と併せてなんとかしてもらえるように依頼してあったのです。もちろん弁護士への依頼料金は前払いで支払い済みです。弁護士介入を認めないなかなかのカード会社でしたが、今年の三月にどうやら弁護士の協会なのかな、そういうルートを使って500ドルをカード会社から取る事ができたと弁護士から言われました。その後すぐ、ちょっとした手違いからカードを再発行となり、弁護士に依頼してあったカードは無効となりました。その時、弁護士は「どうしてそんなこと(カード再発行)を受け入れたのか」と怒っていました。「なんでそこまで怒るんだろう」というくらいに憤慨しておりました。その後、弁護士は取立てを依頼してあったにも関わらず、「わかっている。ちゃんとやっている」と言いながら、私の依頼を中断しているようにみえました。仕方なく、時間かけながらも私は自分で再発行されたカードをインターナショナル利用に適応するようカード会社に毎晩のように連絡をとり、なんとか日本でカードを使えるようにできました。ふと、残高をみると3月に500ドルがおろされていました。すっかり忘れていましたが、弁護士が受け取ったまま私の手元に渡ってきていない500ドルの存在を思い出しました。弁護士に500ドルを送金してほしいと連絡すると、最初は私からの連絡を無視していたのですが、数回目にやっと返事があり、「実際あなたにかかった時間などを計算しているところです。おそらく500ドル以上になるかとは思いますが。」とありました。前払いで支払い済みというのに一体なにを言い出すのやら、と怒りの炎は燃え上がりました。しかし、主人は「ま、弁護士に騙し取られるというのは度々あると聞くし、500ドルをカード会社から取ったと弁護士が言ったときすぐに請求しておくべきだったな。おそらく、彼女はカードにあったお金すべてを盗るつもりだったけど、幸い君はカードを再発行という流れに乗ったから500ドルですんだわけだ。盗られたのは事実だけど、おそらく取り返すにはまた別の弁護士を雇い、その料金は500ドルは超えるだろうね。」と言いました。泣き寝入りです。信じていた弁護士、彼女は自分の息子が自閉症だからと私に親身になってくれていて、養育費を渋る元夫に対して私の弁護をしてくれたのです。悔しいのは、その彼女に盗られたことです。もう彼女には関わりたくない、そう思い泣き寝入りすることにしました。

 先月半ばすぎ、そんなこんなのストレスなのか、霊の現象なのか、私は職場で倒れました。いきなり意識を失い、その場に倒れたようです。同僚が救急車を呼んでくれたそうで、意識が戻ると遠くからピーポーのサイレンが聞こえてきました。私が担架で救急車に運び込まれるのを二階の教室の窓からみていた息子と目が合いました。主人があわてて市民病院まで駆けつけてくれました。かつて、ニュージャージーでERに運ばれ、緊急手術を受けたことを思い出しました。自分の病状よりも「早く帰って子供たちの世話をしなきゃ」と泣いていたことを今も覚えています。でも、今、私には家族がいます。弁護士にお金を盗られたとき話を聞いてくれる主人、救急に運ばれたと聞くや否やすっ飛んできてくれる主人、検査の結果、異常はないからと言われ帰宅すると帰りを待っていてくれる子供たちと私の両親。私には今もこれからもいろいろな不運が起こるでしょう。でも、私にはそれを支えてくれる家族がいます。それは不運に勝る幸せだと感謝しております。