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ENJOY 2017 障害のある子供の支援

障害のある子供の支援

 

 4月になり、子供たちが新学年に進級しました。息子は小学6年生になりました。小学生最後の年です。いつまでも赤ちゃんだと思っていた息子があと1年で中学生になってしまいます。意識もなく過ごしてきましたが、息子は小学校の高学年です。よくぞここまで育ってくれたと思わせる足はサイズ25.5cmのデカ足、でも今まで本当にたくさんのことがありました。健常の子のように、すくすくと成長するという表現はあまりにも遠すぎるような凸凹の成長をしてきました。思い起こせば一年前、息子は強迫性行動がひどく、日常生活にも支障が出ていました。学校生活にも支障が出ました。一番辛く苦しかったのは息子自身だったのでしょうが、私たち家族も巻き込まれ、空があまりにも遠く高く感じ、世の中から見放された想いに駆られていました。

 あの頃、私たち親子を救ってくれたのは現在も息子が通っている児童の福祉施設です。一旦強迫性行動が出たら1時間足踏みをし続けたり、2時間お風呂の入り口で出たり入ったりを繰り返したり、ドアの蝶番がはずれるまでドアの開閉を続けたりし、私と息子が共倒れするのは時間の問題のような気がしていました。息子の強迫性行動が始まったのと同時期に、この施設が開所しました。児童のための福祉事業、放課後等デイサービスの施設です。放課後等デイサービスといわれても何のことだかわかりにくいですね。簡単に言ってしまえば、障害のある小学生から高校生までの子供が通う育成センター(学童保育)みたいなところです。福祉は障害のある大人だけでなく、障害のある子供も支援します。今日は、息子がお世話になっている施設を含め、児童の障害福祉支援について少し紹介してみたいと思います。

移動支援

 移動支援とは、障害のある人の地域生活を支えるために、余暇活動や社会生活上必要な外出にガイドヘルパーを派遣して、移動の介護を提供するサービスです。このサービスは大人だけでなく、障害のある子供にも適応されます。家族とならお出かけできる、車でなら旅行に行ける、でも、公共交通機関を利用してのお出かけや家族以外の人との外出はなかなか難しいものです。うちは、月に一日、余暇活動の充実として移動支援を利用しています。息子の課題は、公共交通機関を使えるようになること、家族以外の人ともお出かけできること、そして余暇の充実です。息子は電車やバスに乗るのが大好きです。移動支援のときはたいてい電車やバスを乗り継いで市外の動物園や公園に連れて行ってもらいます。今は学校までスクールバスで通学してますが、いずれはバスを使って自力通学できるようになるといいなと願っております。そうすれば、就職したときに通勤に困らなくなるでしょうし、車の運転ができなくても自分で動ける範囲が広がります。それにはまず電車やバスの乗り方を学ぶ必要があります。そして、そこにはもうママは一緒にいない、息子の自立した社会になっていくべきなのです。移動支援ではこういったことを学ぶ機会ともなるのです。大変意義のあるサービスなのですが、実際にはサービス提供時間数を100%利用することは難しいです。例えば提供時間が3日分あったとして、3日申し込んでも実際に利用できるのは1日だけです。他の自治体については詳しくわかりませんので、あくまでも私の住む市での実情です。その理由は、まず移動支援のヘルパーさんが少ない。移動支援のヘルパーは大変な仕事だと思います。みんながみんな、お出かけを楽しんで問題なく外出できるかといえば、やはり走り出す子供もいれば、道中癇癪を起こす場合も考えられます。そして、平日は学校があるため、どうしても週末の申し込みが多くなります。それに対応できるだけのヘルパー確保は容易なことではないでしょう。また別の問題として、男性のヘルパーが少ないため、余暇活動としてプールに行きたい男の子で衣類の着脱に介助の必要となる場合、毎回プールに行くことは難しくなります。このように社会へ出て行く支援として、息子にとって移動支援は欠かせない支援のひとつです。自立への第一歩になることでしょう。

日中一時支援

 この日中一時支援と放課後等デイサービスと混乱される方がたまにいらっしゃいます。一番大きな違いはその目的です。放課後等デイサービスはあくまでも障害のある児童のためのサービスですが、日中一時支援の目的は、障害者・児の日中の活動を確保し、障害者・児の家族の就労支援及び家族の一時的な休息を目的としています。つまり、家族が障害者・児の介護からの休息を得るため、障害者の居場所を確保してくれているということです。老人もそうですし、障害者も、「家族が世話をするのは当たり前です」などと言われても、実際のところ、介護する家族にも休息が必要となります。そのときに、「私が楽するためこの子を預けるなんて薄情だ」と自分を責めるべきではないと思います。休憩をとることで、またあらたな気持ちで向き合えることが大事なのです。また、家族の方の仕事時間が遅くなるため、その時間まで障害のある方をお預かりする場合もあります。そうすることで、家族の就労支援となり、経済的な生活の安定になると思います。現在、息子がこのサービスを利用することは滅多にありません。放課後等デイサービスがまだそんなに普及する前は私の仕事が終わるまでの2時間くらい息子の見守りをお願いしました。現在、息子はまだ小学生なので、学校が終わると放課後等デイサービスを利用して時間を過ごせますが、成長し18歳以上になったときはどうでしょう。放課後等の利用対象ではなくなり、かといって自宅にひとりでいるのも心配な場合、やはりこの日中一時支援は不可欠なサービスとなるでしょう。

放課後等デイサービス

 放課後等デイサービスとは、障害や発達に遅れのある子供のための福祉サービスです。
6歳から18歳までの就学年齢の障害のある子供たちが通うことができます。
児童発達支援管理責任者が作成する個別支援計画に基づいて、自立支援と日常生活の充実のための活動などを行います。息子が毎日放課後に利用しているサービスです。健常な小学生が放課後、母親が就労しているため自宅には帰らず育成センターに行き、学童保育を受けるように、障害のある児童が放課後に放課後等デイサービスの施設に来て、勉強したり、活動に参加したりして過ごします。

 現在、私の市では40以上の放課後等デイサービスの事業所があります。そして、今もこれからも事業所は増えています。需要があるのでしょう。ただ、その中にはいわゆる質の低い、お金儲け傾向のある事業所もあるように思われます。では、私たち障害児の母親たちは一体なにを基準に事業所を選べばよいのでしょう。うちの息子が利用している事業所の特徴は「就労特化したプログラム」です。高校卒業後、就労するときに利用者が困らないよう、小学生のうちから少しずつでも就労に必要となるスキルを身につけていけるようなプログラムが組まれています。息子は新しいことを習得するのにとても時間のかかる子です。高校生になってから就労に向けて動き始めたとしたら、その中に馴染む頃には卒業となってしまいます。事業所では就労に向けてのジョブトレーニングだけでなく、毎日小学生から高校生の全員での活動や体操も行われています。

 息子はこの事業所が大好きです。ここのスタッフの多くは過去に就労支援事業所での支援に携わっていたため、障害については知識も経験もあります。一年前、息子が強迫性行動に苦しんだとき、ここの支援で救われたのも、スタッフが一丸となってぶれない支援を続けてくれたおかげです。だめなものはだめ、でも、それを子供たちに伝えるのはその個々にあったやり方で伝えていきます。頭ごなしに「だめ」ではなく、理由を理解できる子には理由を説明し、理解が難しい子にはその子に精神的な負担のない方法で伝えていくようです。「ま、しかたないなあ、今回はいいかあ」という理由でその場しのぎなことは決してしないので、子供たちも「泣いて騒げば思うようになる」ということはここでは通用しないことを学びます。スタッフの怠慢による、適当な手抜き支援をする事業所も存在する中、ここの事業所はいかに有意義な支援を提供できるかが課題となり、スタッフ間で話し合い、それをもとに保護者との話し合いも頻繁になされています。事業所は子供たちにとって外の社会、そして家庭は内の生活。内と外のバランスはとても大事で、そこには共通するものがなければ、その間にいる子供を混乱させます。

 息子は小学4年生あたりから、OTやSTを「卒業」という名目で切られていきました。幼児までは訓練で伸ばせても、ある程度の年齢に達すると療育はあまり必要ないと判断されるみたいで、療育を切られていきます。現在、息子はすべての療育を切られました。それ故、事業所における支援には大きな比重がかかります。特別支援学校では、今年から授業時間も短縮され、小学6年生という学齢期なのに、国語が週2回、算数が週2回のみの学習時間に削減されました。小学生が学校に行く意味は何でしょうか?学習が必要だから小学校では勉強を教えるのではないでしょうか。特別支援学校では多くの子が生活自立に先生たちの手がとられます。だから、在校する全員が学習時間を削減されるべきなのでしょうか。週たった4回の学習時間が小学6年生に適切だとは、私は思えません。身辺自立が必要なお子さんにはそういうプログラムを組むことも必要です。でも、身辺自立がほぼほぼできている子まで巻き込むことが適切なのでしょうか。学齢期には学ぶことがたくさんあります。

 私は学校で勉強を教えてもらえないなら、放課後の事業所に協力をお願いして、私が息子を導いていこうとあらためて思いました。そうするにはやはり、子供の将来を一緒に考えてくれる事業所でなければなりません。本来、学校で勉強し、放課後の事業所ではその補足程度に教えてもらうことが筋なのでしょうが、現実はその逆です。必要な福祉サービスを利用することでそれが補えるなら、私はまだまだ現実に希望を持っていたいです。