ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2017 障害者就労支援

障害者就労支援

 

 私が福祉の仕事に就いてこの夏で早三年になります。もう三年なのか、まだ三年なのか、それはその時時に異なる思いを感じます。福祉の仕事に就く前は、息子の将来を思うといつかは福祉の仕事に就くことがいいだろうと漠然と考えていました。福祉といっても、障害者支援、高齢者介護とありますし、障害者でも大人から子供まで、そして異なる目的の支援があります。日本に戻ってから子供たちに英語を教える仕事をしていましたし、私の子供たちもまだ小さかったこともあり、障害児支援の仕事が私には一番適当ではないかと考えていました。息子を育ててきたという自負もあり、自信をもって履歴書を送りました。ところが、息子を思っての仕事のはずが、仕事の時間帯が全く持って子供たちの生活に合致しないのです。児童の放課後等デイサービスで最も忙しくなる時間は子供たちが通所してくる時間です。学校が終わった時間に学校に送迎にうかがい、それから午後五時あたりまで施設ですごし、それから自宅に送迎します。そうなると子供たちを自宅に送り届けた後までの勤務となります。息子も同様に放課後等デイサービスで過ごし、自宅に送っていただくため、仕事の勤務時間と重なるのは絶対でしょう。それにプラスして、「息子さんと同じ学校のお母さんたちの中には、クラスメイトのお母さんにわが子のことを知られることを嫌がる方もいらっしゃるんですよね」といわれたこともあります。そんなこともあり、子供たちが帰ってくる前に家に帰られる時間の仕事を探すことにしました。

 息子は今は小学生ですが、いずれは大人になり、社会人になります。私は息子には社会で生きる人になってほしいです。社会に生きるということは、支援されるだけでなく、自分が社会人として働くことです。どんな仕事でもいいのです。ただ、社会に生きる一人として働く大人でいてほしいのです。息子は障害がありますが、かわいそうな人でもなければ、できない人でもありません。ただ、時間がかかります。健常な人が1年で覚えることを息子は何年もかかります。でも、覚えることができないわけではありません。学校を卒業する年に就職に向けての準備をしていたら、息子は仕事に就いても仕事をできる人になれるかどうかわかりません。だとしたら、何年も早くから息子には就職する意識とスキルを身につける支援が必要となります。障害者就労という言葉すら知らなかった頃、息子を社会に送り出すための支援とは、どうしていったらいいものか想像もつきませんでした。

 そんな私が縁あって、障害者就労支援の仕事に就き、この三年でずいぶんたくさんのことを学びました。こんな私を信じて事業所立ち上げに加えてもらうことも二度もありました。そして、今またそんな機会を迎えております。勤めているのは、息子が通所している障害児の放課後等デイサービスですが、そこで私がやっているのは、就労に向けた訓練と現在通所している子供たちの就職支援です。いつか息子も就職する日を迎えます。そのときに、「まわりにどう支援してもらいたいか。」三度目の就労支援事業の立ち上げに携わることになり、今回どうしてもやっておきたいことがありました。それは、近隣の市の障害者就労の場を可能な限りすべてを見学しておくことです。よその真似をするということではなく、どういった内容の支援で、どういった方が就労しているのか、どんな作業をしているのか、など障害者が就労するにあたり、なにが必要で、そのためにどんな訓練をしていくか、私たちスタッフが学んでおきたいと思ったのです。

 一言で障害者就労といっても、福祉の就労サービスもあれば、一般企業の障害者雇用、また特例子会社もあります。「うちの子はできないから福祉のお世話になるしかない。一般企業で就職するなんてできっこない」と親があきらめている家庭も多々あります。私は子供の将来に親があきらめてしまっては選択が広がらないと思うのです。健常者と同じように働く必要はないのです。障害があってもできることはたくさんあるのですから、本人に適した仕事をすることが大事だと思います。息子は決して器用な子ではありません。でも、覚えたことは忘れません。企業の特例子会社を見学していると、たくさんの障害者がいきいきと大企業の敷地内で仕事している姿を拝見します。私はそこに息子を重ねてみてしまいます。たくさんの就労の場をみることは私を支援員として、母親として目を肥やしてくれます。

 事業立ち上げに携わりながら、私は思うことがあります。「利用者が幸せを感じる事業所」を作りたいです。なにが幸せ?、それは人それぞれの価値観によって違ってきます。でも、通うことでそれぞれの人生をより豊かにできたり、それぞれの心を和ませたり、そして就労のスキルを身につけ、いつか一般企業に就職するとき、笑顔で送り出せるような、そんな施設を作りたいと願います。それは決して簡単なことではありません。だから、私はもっともっと勉強しなければなりません。それは仕事のためだけでなく、息子の将来にも結びつきます。私が福祉の世界に飛び込んだ理由が息子の将来ですから、今のところ私は横道にそれずに進めているのかなとちょっとうれしく思っております。