ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2018 タイに行ってきました

タイに行ってきました

 

 今年の夏は異常なまでに暑かったです。体温どころかインフルエンザにかかったときの高熱並みの気温が連日続き、まさに「危険」ともいえる暑さでした。夏休みを目前に、今年の夏の家族旅行はどこに行こうかと考えました。私の職場は、夏休みには特別支援学校の高等部の生徒が3~5日間程度で実習にきます。卒業後、多くの生徒は就労移行事業所、就労継続A型、B型事業、または生活介護事業所に通うようになります。もちろん、一般就労する生徒もいます。それぞれが自分に見合ったところに行けるよう、実習を通して自分が適した場をしぼっていくことがこの実習の目的となります。なので、私もそれにこたえられるよう、実習生がないときに家族旅行を予定しようと思いました。

 夏に休みといえば、お盆休みしかありません。今年は幸いにも11,12日もカレンダーの赤い字の日です。そして、会社は13~16日までお盆休みに入ります。お盆休みの旅行は高い!どうしよう、お盆明けに休みとれないかしら、と思ったければ、休みはとれそうにありません。お盆は近所の盆踊りに行くくらいで遠出したことはありません。しかたありません、お盆に旅行行きましょう。さて、家族会議です。「どこに行こうか?」という議題で話し合いました。主人は「去年はタイに行ったから、今年は国内にしておこうか。北海道とかはどうだろう?」と言いました。よし、そんじゃ、北海道旅行を、ということで調べてみたところ、びっくりするほど高いのです。そして、飛行機チケットが思うような日にちでとれないのです。がんばっても2泊3日で、それでも高いのです。ホテル代、食費、飛行機代、かかるものはかかるのです。ホテル代と食費に関しては国内旅行は高いと思うのです。まして、お盆シーズンはプラスαです。そして、国内は混みあうでしょう。

 ということで、今年もタイに行くことになりました。せっかく行くのなら、去年とは異なる、そして子供たちにプラスなるような旅にしようと思いました。自閉症の息子にとっての海外旅行は、健常児の旅のようには行かないこともありますし、リスクもあります。私たちが成長するため、課題を作ることにしました。

課題1)去年より長い時間過ごしてみよう。昨年は5泊6日でしたが、今年はもう一日増やし、6泊7日にしました。これですらかなりの冒険です。でも、息子も私たち家族も乗り切れると思いました。

課題2)公共交通機関を使ってみよう。友達がバンコクで旅行会社を経営しているので、昨年はそこの会社の車をチャーターしてバンコク市内、近郊をまわりました。でも、今年は郊外に出る時は車をチャーターしますが、市内はBTSと呼ばれる高架鉄道を乗りこなそうと決めました。私がバンコクに住んでいたころはBTSはなく、ひたすら渋滞に巻き込まれながらバスやトゥクトゥク(三輪自動タクシー)に乗っていました。私にとっても冒険です。タクシーも安いのでいざとなればタクシーでもいいのですが、課題はBTSに乗って市内を移動することにしました。

課題3)歴史にふれよう。娘は小学六年生、歴史を習い始めています。タイには歴史的な場がたくさんあります。去年は寺院をみてまわりましたが、今年は大東亜戦争中に日本がかかわった泰緬鉄道、映画「戦場にかける橋」を見学に、郊外のカンチャナブリーに行くことにしました。おそらく戦争でどんなことがおきていたのかを理解することはできないかもしれませんが、そこをみることで学校で歴史を学んだとき、自分がみたことと歴史がつながるのではないかと思います。

 課題を抱えて私たちはお盆休みの真っ只中8月10日から16日で日程でタイに行きました。環境の変化、お盆休みで混みあう空港、食べ物・言語・文化の異なる中での生活は息子には大きなストレスとなります。パニックを起こした時のための薬も持参でした。結果、私たちはどの課題もクリアしました。そして、息子はパニックを起こすどころか誰よりも旅を楽しみ、終始、脚を痛めた私の腕をぎゅっとひっぱってくれました。BTS駅の階段をあがるとき、息子はいつも力強くひっぱってくれました。大雨の後、タクシーが捕まらず、私は脚が痛くて泣きそうになっていると、「ママ、痛いの?しんどい?」と言って私の肩に腕をまわし、中年太りの私を抱きかかえようとしてくれました。いつの間にこの子はこんなに大きくなっていたのだろう、と小太りながら身長が低くチビの私は息子のたくましさに感動しました。

 私たちが今回課題の3つをクリアするためにしたことを紹介します。

まず、無理な時間で動かないことです。混みあう空港も時間に余裕をもって散歩しながら、息子の納得いくように時間をつかいました。飛行機の中でも、着陸が近くなると息子には自分は飛行機に乗ってきたんだ、もうすぐ飛行機がとまり、飛行機から降りるんだ、ということを息子自身が受け入れ納得するよう話しました。タイでもハードな予定は組まず、夕方にはホテルにもどり、それから食事に出かけるくらいの時間で一日を終わらせていました。

滞在中のスケジュールを視覚でわかるようにしました。ホテルのリビングルームに、私がエクセルで作った8月のカレンダーに毎日の行き先を記入し、帰国する日も明確にしました。そうすることで、息子は自分がいつどこに行くのか、いつ飛行機に乗って帰るのかがわかります。「ママ、いつうちに帰るの?」と不安に感じ、それを私に訊き続けたら私も面倒くさくなり顔に出てしまうことでしょう。だから、息子が先を予測できるよう、カレンダーに予定を書きこんで視覚的に安心させました。

あと、私たちが旅を楽しむことです。息子はとても敏感な子ですから、私たちが笑ってないと「どうしたんだろう、なにがあったんだろう」と不安になります。不安はストレスとなり、そしてパニックを起こすきっかけとなります。つくろった笑顔は息子の心には届きません。私たちが楽しそうで、息子に弾んだ声で話しかけることで息子は落ち着いてすごせます。

 BTSは私にも初めてでしたが、私たちは混みあう電車でショッピングモール、ウイークエンドマーケット、水族館、チャオプラヤー川のボート乗り、毎日のように出かけました。息子が車内でうれしくて顔を手で覆っていると乗客が「かわいい子ね」と笑顔をくれることが度々ありました。なんでしょう、不思議ですが、息子の笑顔は他人までも笑顔にし、そして私たちは他人から笑顔をもらえるのです。楽しく旅行をすごせました。旅の翌日から私は仕事に戻りました。子供たちの夏休みはあと少し続きますが、私の夏休みは終わりました。次号から少しの間、私の職場についてお付き合い頂こうかと思っています。よろしくお願いいたします。