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ENJOY 2018 障害者の就労

障害者の就労

鈴木純子

 最近、私は複雑な思いを感じます。それは、私は障害児の母親であり、障害者支援施設のスタッフでもあり、それぞれの立場から福祉をみてしまうことにより、矛盾とか、無力感とか、あきらめとか、一つのことに対してたくさんの相反する感情を抱いてしまうのです。毎度のことになりますが、私が言う福祉というのは、あくまでも私が住んでいる市におけるもので、自治体によって対応もサービスも異なるでしょうし、地域によって環境も異なります。なので、「日本の福祉サービス」と受け取らず、鈴木純子の住む市の福祉サービスと思ってください。

 以前は障害者が一般企業に就職するというのはかなりの難関だと思われていました。しかし、障害者に対する就労支援と、企業側の理解も高まり、世の中も障害者を一労力として受け入れてくれるようになってきました。障害者に就労支援を提供するのが福祉サービスで、それには就労継続A型・B型、そして就労移行があります。これらのサービス事業所については過去の記事に書かせていただいておりますので、簡単な説明にいたします。就労継続A型というのは、一般就労は難しいが、雇用契約に基づく就労は可能な障害者に雇用の締結による就労の機会を提供し、就労能力を高める事業所です。報酬は最低賃金が保証されています。就労継続B型は、一般就労は難しく、雇用契約に基づく就労も難しい障害者に働く機会を提供し、報酬として工賃の支払いがあります。そして、一般就労をめざす18歳から65歳までの障害のある方は就労移行支援事業所に通所して、就労にむけての訓練および実習を通して一般就労していきます。一般就職していくのは、移行支援からだけでなく、就労継続A型・B型事業所からもあります。

 実際、就職はできるものの、定着できずに退職してしまうことが多く、就労の難しさが問題となりました。。この問題に対応すべく、平成30年4月1日に改正された「障害者総合支援法」では、「就労定着支援事業」という、職場定着支援を行う事業が創設されました。

「就労定着支援事業」というのは、就労継続支援A型・B型、就労移行支援事業から就職し、半年経った方に対する職場定着支援を行います。支援期間は就職後半年から三年間です。

 どうして支援開始が就職してから半年後からになるかというと、就労支援系サービス(就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型)は、利用者が就職してから半年間は職場定着支援を行わなければならない義務(一部努力義務)が課せられているのです。なので、就労定着支援事業を「就職から半年後」とすることで切れ目ない支援ができるのです。

 職場定着支援を行う機関は他にも「ジョブコーチ(職場適応援助者)」があります。就労定着支援事業は、「就職した半年後から3年間」に職場定着支援を行います。そして、ジョブコーチ(職場適応援助者)は、「就職直後に集中的に支援」を行い、時間が経過するとともにフェードアウトします。ジョブコーチは「継続した職場定着支援」を行うのではなく、入職直後に本人が職場に、職場が本人に慣れるための支援を集中して行うからです。ジョブコーチはこの「入職直後」の支援の専門家なのです。この時期に、本人と企業の双方の理解をうながし、職場に適応できるように助言・指導を行います。本人や企業の状況によって異なるため一概には言えませんが、たいてい就職から半年以降から徐々に訪問頻度を減らし、最終的には訪問しなくなります。

 ちなみに、就労定着支援事業の要件は、過去3年において平均1人以上、障害者を一般就労に移行させている指定事業者生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援)となります。就労移行支援事業所が多機能支援事業のひとつとして、就労定着支援を行えるようになったら、就職してすぐから半年まではジョブコーチが支援し、そのあと三年後までは就労定着支援がサポートしてくれたら、離職率も下がってくるのではないでしょうか。

 長々と就労定着支援事業について説明してしまいましたが、こうして新しい事業が創設されると今まで「就職しても定着しないから、また福祉サービスに戻ってきてしまうんです」という問題のためには前進したと願ったおります。しかし、障害者就労サービスについてはもっとたくさんの問題があります。たとえば、多くの事業所では、利用者に報酬を払うため、利用者だけでなく、むしろスタッフが作業をして収入を得ています。自治体からおりてくるお金は利用者への報酬には使えません。なので、作業をすることで得たお金を利用者に工賃として支払われるわけですが、利用者だけの作業量ではなかなか工賃までは稼げません。そうなると、スタッフが作業を行い、収入をあげていきます。スタッフは利用者に対しての支援を目的として配置されていると思うのですが、利用者を背にして、内職仕事をこなしてその賃金が利用者の工賃になっていくのはどこかおかしいと思えてなりません。特に、就労移行支援事業では、工賃を払う必要はありません。しかし、利用者がいないと経営がなりたたないため、利用者獲得にどうしたらいいか考えます。支払わなくてもいい工賃を、「うちは来所すれば一日千円工賃として払いますよ」とすれば、利用者は言葉に乗ってしまうでしょう。

 多くの就労移行支援、就労継続支援といった事業所は、お金を得るためにどうしたらいいかということに執着しがちですが、本来、なにをするための事業所なのかを今一度再認識して欲しいと思います。という私自身も、就労移行支援事業所に勤めるスタッフとして、利用者と分担して作業をやってしまっています。時として利用者に対しての支援よりもいかに手早く作業をこなせるかを考え、利用者と同様に作業をやってしまいます。私が清掃のスキルを高めたり、食品調理したり、それでは私がこういうった職種に就労するための訓練をうけているようなものです。障害児の母親としていうならば、「就労に必要なスキルを身につけ、向上させていく」場として、機能していないんじゃないのか、と思ってしまいます。

 最近、私は福祉サービスで仕事をしていることに矛盾と葛藤を抱えております。知らないほうがよかったことまで知ってしまったのかもしれないですね。