ENJOY アメリカ・ニューヨーク 日系情報誌連載エッセイ集

アメリカ・ニュージャージーで過ごした生活の中で私が見ていた景色

ENJOY 2018 詐欺ハガキが来ました

詐欺ハガキが来ました

 

 いよいよわが家族にも詐欺ハガキが来ました。「オレオレ詐欺」はじめ多くの詐欺が電話やメール様々な形で増加しているとはきいていました。とはいえ、そういうものは同じ町内にこそ起きてもうちの家族には縁のないものと思っておりました。しかし、それは突然やってきました。私の心構えもないときにいきなりでした。

 朝、バス停で息子のスクールバスが来るのを待っていました。スクールバスは遅れることがあり、そうなると私が仕事に遅刻するため、毎朝私の母に息子の送り出しをお願いしています。その日も母はやってきました。「ねえ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」と、母は切り出しました。母は私にハガキをみせました。見るとそこには「消費料金に関する訴訟最終告知のお知らせ」とありました。「契約不履行により、訴訟を開始する。訴訟取り下げ期日までに連絡がない場合は、給与、動産、不動産を差し押さえる」といった内容が記され、差出人は法務省管轄支局 民間訴訟告知センターとありました。母は「これ、受け取ったんだけど、お父さんには話せないのね。お父さんは最近、心臓も悪く、よく転ぶから、心配かけるようなことはできないの。」と震えながら言いました。そんなハガキをいきなり突きつけられたら私も頭はパニック状態に陥り、思わず「なにをしたの!」と声を荒げてしまいました。母は「多分、これだと思うんだけど。」とクレジットカードの明細を出してきました。「一月にクレジットカードの支払いをリボ払いにしたんだけど、私は耳が遠いから電話口の人の言っていることがよく聞き取れず、ハイハイと返事しながらもよくわからずこちらの言いたいことだけ話したら、もしかして何かを契約してしまったのかもしれない。でも、二月も三月もちゃんと支払いできていて、なにが起きたのかわからない」と、母は不安いっぱいに言いました。

 こうなると私も冷静さを失います。息子のバスは来たし、仕事にも行かなければならない。「ここに電話してほしい」と母は言うけれど、ハガキには本人からの連絡とあるため恐らく代理の私では話にならないだろうと判断し、「今日、仕事から戻ったら電話するからうちにきて」と母とハガキを残して私は仕事に行きました。その日は一日中「一体、なにが起きたんだろう。母はなにをしでかしてくれたんだ」と考えました。実家が差し押さえになるのだろうか、私で立て替えられる金額なら全額とにかく払おうか、母はクレジットカードを持つべきではないかもしれない、などいろいろなことが頭を駆け巡りました。

 帰宅し、母をうちに呼びました。母はハガキを持って現われました。母はいつもより小さくみえました。しかし、母がなにかをしでかしたと思っている私は小さく見える母が金銭管理もできなくなった老人になったと思え、私はこの先我が家だけでなく、両親の生活もみていかなければいけないのかもしれない、とため息が出ました。

 ハガキに書いてある電話番号に電話をしました。「はい」と電話口の男性が言いました。あれ?法務省なら電話に出たらまず法務省っていうんじゃないかな、と思いながら、時間外だから正規職員ではない人が出たのかなと思うことにしました。「法務省管轄支局ですか?」ときくと「はい」と答えました。なんかおかしな対応だな、という気がしました。「母あてに消費料金に関する訴訟最終告知のお知らせというハガキがきました。母は難聴でほとんど聞こえないので私が代わりにかけておりますが、母はここにおります。」と言いましたが、「はい」としか言いません。「これについてお話をうかがいたいのですが」というと、管理番号は?ときかれました。番号をいうと、「お待ちください」と言われ、数秒ですが、関西弁が聞こえました。「あれ?私は東京の法務省に電話しているのに、この関西弁はおかしいぞ」と思いました。数秒後「その管理番号はありません」と言われました。再度ハガキに書いてある管理番号を読み上げ「番号に間違いありませんか?」ときいたのですが、「その番号はありません」と言われました。「でも、じゃあ、このハガキはなんですか?」と聞くと、「こちらからそういう件のお知らせでハガキは使いません。封書でのお知らせになるのでそれは破棄してください。」と言うのです。「破棄って言われても、訴訟とか書かれているのでこれを破棄してなにかあると困りますので。。。」と言うと、「誰かが送ったものでしょうから、こちらからではありません。破棄しても大丈夫です。」となんだか商売にならない客を相手にする店員みたいな面倒くさい口調で言われました。「これ、法務省からではないらしい」と、母に話しました。

 どうもおかしいなと思い、インターネットで調べてみるとこれは最近よくある詐欺だったのです。「ハガキに書かれてある番号に絶対に電話しないこと」とありました。電話で不安をあおりたて、振込み詐欺に結びついていくらしいのです。翌日、母は消費者センターにハガキを持っていきました。「ハガキがきましたか。コピーとらせてください。」と、消費者センターの職員は慣れた様子で対応してくれたそうです。七十代の人が二千四百万円騙し取られたと言われ、母はぞっとしたそうです。

考えてみれば、おかしなことがたくさんあります。まずこういうことがハガキできたということ、そして、消印が豊島、日付が18.5.20でありながらハガキに書かれている取り下げ最終期日が平成30年5月23日、どう考えても日にちが迫りすぎている、そして電話の対応が役所ではない、といったことをはじめ、いくつかおかしな点は出てくるのです。しかし、後で考えてみればおかしいと思えることも不意を衝かれると「うわあ、なんだ、これは!」と思い当たることを考え、「そうだ、それだ、間違いない。どうしよう」と思ってしまうのです。私はこういう詐欺にはひっかからないと思っていましたが、このハガキで母はなにかしでかしたのではないかと疑ってしまい、まさに詐欺の誘導する道を歩もうとしていたのです。今回、私たちは詐欺の望むカモにはなりませんでしたが、詐欺の感情コントロールにはひっかかりました。みなさんもこの手の詐欺は日本だけでなくアメリカにもあるので、受けたらまずは落ち着いて対応するようにしてくださいね。